この「日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ魂に残る楽しい学びの冒険 その実践例」は前回から始まった幼稚園のプロジェクト型学習実践例を紹介する長期シリーズです。前回のプロジェクト学習のイントロダクションはこちらからどうぞ。
このパンデミックで今年の秋の運動会の中止を検討されている幼稚園、保育園も多いのでしょうか?
賛否両論があっても、大人になって「運動会なんて嫌いだった」て言っていても、日本で子供時代を過ごした人ならば、本当はやっぱりみんな、「運動会」という響きにちょっぴり懐かしさがあるんじゃあないんでしょうか? 「パンデミックで運動会できないとなるとちょっと寂しいなあ」って感じる時、運動会ってやっぱり楽しい日本文化の一部かなって思ったりするのです。
今年は、それにいろいろな意味で「忘れられないオリンピック」を開催したした年でもあります。激しい賛否両論はあっても、素朴で、パンデミックで大変な思いを経験されている様々な分野の人々への共感や、敬意 そして感謝の心を表する事を忘れなかった東京オリンピック。その開催式をスクリーン越しに見守り、目頭を熱くした人びとは世界中に沢山いると思います。
幼い子供たちを教える私たちは、教師として、このオリンピックで日本人が共に経験した喜びや想いを、ぜひ教室の中で再現する機会を作ってあげたいものですね。私もメルボルンで、日本の幼稚園生がオリンピックの選手を訪ねて行って激励したというニュース(ま、これにも賛否両論があったようですが。)をみて気持ちがほっこりしました。オリンピック開催の期間はきっと幼稚園保育園の園庭でオリンピックにちなんで、かけっこや障害物競走などを楽しんだ先生方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
もし、このパンデミックで今年の運動会か中止になるというのであれば、今年は、クラスの子供達だけで、子供自身が企画した小さな運動会(またはオリンピック)を子供たちと一緒に楽しんでみてはどうでしょうか?
子供たちが作る小さな運動会プロジェクト
まず、プロジェクト型学習には世界中の様々な専門家や実践研究者が提案する学習フェイズ(学習のプロセス)というのがありますが、幼児教育の場合、そんな机上論はあまり役に立ちませんから、基本だけちょっと触れておきましょう。
基本的なプロジェクト型学習の流れ
これから書くのは「基本的なプロジェクト学習の流れ」ですが、これはオーストラリアの初等教育指針(Early Years Learning Framework, 2009)と他の文献から学んだことを土台として、私自身がクラス担任の仕事を通して実践検証をしながら構築してきたもので、つまり私のオリジナルです。 (要するにプロジェクト学習は大変フレキシブルな学習・指導方法なわけです。)
私が提案する基本的なプロジェクト学習の流れ こんな感じです。
- 「何やってんだろう?」(教師の観察と認識 )
- 「じゃあ、これについて探検してみる?」(1の認識をきっかけとする教師の意図的アプローチ)
- 「こんな風にいろいろ探検できるよ。他のお友達も誘ってみよう」(教師の環境的、社会的アプローチ)
- 「何が一番おもしろい?なにが知りたい?」(子供と一緒に質問を探る)
- 「じゃあ、それについて調べてみよう。いろいろな人に手伝ってもらおう。君は何が得意?」 (絞った質問に対する共同的な調査や実験。タスク分担の経験)
- 「ああ、そうなのか。本当にそうなのかやってみよう」(仮説設定と実証実験)
- 「あれ、やっぱり、これだめだ、どうする?じゃあ今度はこうしよう」(試行錯誤のサポート)
- 「できた、わかった!みんなに見せてみよう!」(結論と共有)
と、こんな感じになります。「だけど、運動会プロジェクトになると、ちょっと違うんじゃない?これ、科学の実験みたい!」とそこでつぶやいた人いますね? そうなんです、プロジェクト学習はとてもフレキシブルなので、この基本に全て収まるわけではありません。ただ、基本はこのサイクルです。
観察→意図的なアプローチ→質問を見つける→学習(探索)活動→観察→意図的なアプローチ→ 質問を見つける→ (サイクル続く…)
「僕たち、私たちの運動会プロジェクト」 実践例
では、この基本のフェイズを、「僕たち私たちの運動会プロジェクト」にあてはめてみましょう。お話みたいに書いてみますが、これはあくまでも実践例です。前回でもお話したようにプロジェクト学習は、「子供が主体」が鉄則です。なので、あなたの教室では、あなたの子供たちは全然違うプロセスを通って、あなたの子供たちにしかできない運動会を作り上げる事になるでしょう。 しかし、このお話は、私の20年間の数ある実践経験を思い起こしそれをもとに作ったので、「幼稚園あるある」級の、かなり現実味がある例になってると思います。
運動会プロジェクトはもしかしてこんな風になるかも ~お話みたいに書くよ!~
私、さり気なく、今回のオリンピックの写真を教室に展示する。つぎの日登園したら、思った通り、写真の前でケントとタケシがメダリストの話で盛り上がっていた(やった!思惑どうり:)。マキとプルー、ほかの子たちも話に入ってきた。みんな家で家族とオリンピックを楽しんだようだ。写真が貼ってあるところでわざと朝の挨拶の会をやったら、やっぱりオリンピックの話になった (イエイ!)
園庭でオリンピックごっこをして遊んだ。盛り上がる。エイミーとゴロウがチョークで塀にきれいな模様を描いたから何だと聞くとオリンピックの開会式で見た「ドロンのショウ」だそうだ笑。悲しいかな、リレーごっこでは「バトンがうまく渡せずのシーン」遊びになってしまった。リリーは向こうで得意の英語であいさつを楽しんでいる。英語圏から来たオリンピック選手だろうか笑?お昼の時間になったので終わりというと残念がる。これが2日続いた。今だ!と思い、グループになったとき「くまさん組の運動会やろうか?」と提案。嫌がってる子はいないかよく確認する。みんなの顔が高揚している。
まずやる日を決める。まず園長先生を教室によんでインタビューをすることに。それをもとに日にちを決め、園長先生にやってもらえることを聞いた。子供と園長先生にその運動会の日に特別なおやつを用意してくれと交渉した。これは成功。これで園長先生のサポートはゲット!(園長先生には必ず事前に話しておきましょう。)
種目について調査する。子供はそれぞれ家に帰ってママとパパの小さいころ好きだった運動会の種目について聞くことを提案された。親には前もってメールで知らせておく。 翌日グループで親が話したことについて話盛り上がる。話をもとに面白そうな種目をイラストを混ぜてボードに画き記録を残し、それを見ながら種目を決める。 ひらがなが書ける子どもに、各種目の一番最初の文字だけ書いてもらう。 イメージがわかない種目についてはGoogleイメージを見てみんなで確認する。「自分たちで決めてやっている」ことに子供が実感しワクワクし始める。
準備することについて考える。メダルを作るってのが一番初めに出る意見。勝った人しかもらえない?それともみんなにメダル?興味深い話し合いだ。子供たちは、しょっぱなからこのメダルのことで「多数決」を体験することになる。頭数を数えるのはもちろん子供自身の役目。 開会式のパフォーマンスは何にしよう?ドロンをつかいたいというから、IT専門のママ・パパに聞いてみようという事になる(不可能なら代わりになることを探せばよい)。今回の東京オリンピックリレーの経験から子供がバトンの練習をしたほうがいいと言い出す。開会宣言は英語であいさつしたほうがいいということになった。他にも面白い意見がいっぱい上がってきたので、全部イラストを用いてボードに記録しておく。子供がいつも見れるところに置いておく。
みんなで仕事の役割を決める(先生が決めるのではありません)。普段の子供の観察がここで役立つ。みんな得意なことができるような役割分担ができるように、先生としてうまいサポートができる。
それぞれ試行錯誤しながら作業を進める。それぞれの作業で途中うまくいかず話し合って変更することもある。時間は1っか月くらい。作業がうまく進まないことがあると、みんなのモチベーションが下がる時もある。けれど、今までの経験上、運動会が出来上がった時のみんなはかなりエキサイトするだろうと確信がある。それを知っているから何でも私自身が前向きにな姿勢を見せみんなを盛り上げる。
当日どうなるかは、それぞれ皆さんのご想像にお任せ。(当日は丸一日イベントにします)
フォローアップ;イベントが終わったら、ぜひ子供たちに自分が一番楽しかったことを絵に描いてもらいましょう。そして子供の感想の張り付け、プロジェクト全体の物語を添えて、オンライン展示会をやるのもイイと思います。 親御さんのコメントを見ると、あなたが子供たちとやった運動会プロジェクトがどんなふうに子どもに影響し、おうちでの会話がどんなふうに広がったのかがわかることでしょう。一人一人の子供がどんな「好きなこと、得意な事)をどんな風に発揮したのかについても、書き加えましょう。これは、あなたの指導記録になるとともに、子供の学習記録(学習証拠)にもなり、今後あなたが親御さんと、子供の成長についてのコミュニケーションを広げてゆくのにもの大切な資料となります。こういうやり取りで親御さんたちとのとの信頼関係も出来上がってゆきます。
プロジェクト型学習 学びの足跡を記録しよう ‐ これが一番重要かも!
さて、 学習証拠(Learning evidence) について少し触れましたが、ここで皆さんがもう少しピンとくるよに、日本の幼稚園教育要領(2018年改訂版)の5つの領域に映して具体的に書いてみますね。例えばこんな感じ。
運動会プロジェクトの経験を通してキャシーは…
- 健康 ;かけっこに参加してとても楽しかったようで、これがきっかけになって普段の外遊びに積極的に参加するようになりました。
- 人間関係 ;キャシーはいくつかのメダルを作り上げ、何人かのお友達に作り方を教えてほしいと言われ、工作リーダーになる体験を楽しみました。新しいお友達も増えたようです。
- 環境;オリンピックのメダルがどんなデザインでできてるのかを資料をつかってよく調べ、観察、模倣、リプレゼントの練習に積極的に取り組みました。
- 言語;お母さんに好きな運動会の種目についてインタビューをした後、グループの話し合いでは、運動会の「紅白」という事について、新しく覚えた言葉を使ってきちんとした説明をしてくれました。
- 表現 ;プロジェクトの最後に描いた絵には、みんながキャシーの作ったメダルを首にかけているところが、生き生きと描かれていて、その絵はその楽しさが伝わる躍動感のある作品となりました。
ちなみに, 私が日本の幼稚園教育要領に触れたのは正直言って28年ぶりです!再び見直した幼稚園教育要領は私にとってちょっとキラキラしていました。だってオーストラリアの 初等教育指針(Early Years Learning Framework, 2009) の5領域はこうですよ。
- Identity ( アイデンティティー)
- Community (社会と環境)
- Well-being (健康)
- Learning (学び)
- Communication (言語)
これに比べると、 日本の幼稚園教育要領 は「環境」に「学びの経験」が含まれていますね。この概念は素晴らしいと思いました。だってこれは、子供は環境から学ぶ、というのを前提にした哲学ですよね。そして言語から表現の領域が独立しています。これは、想像したり創ったりすることの重要性が強調されていて日本の文化の土台となるものが感じられます。 皆さんに、日本で当たり前にこの 幼稚園教育要領 を使っているので、こういう素敵さにあまりピンと来ないかなあ?
補足ーパンデミックじゃなかったらこんな事もできるね
パンデミックでなければ、公園にまでランニングの真似をしてみるとか、公園の広い所でサッカーを体験してみるとかの、フィールド体験もプロジェクト学習の中に含むことができたでしょう。また、言うまでもなく最後は、子供自身で運動会の招待状を作って家族を運動会に呼ぶこともできますね。パンデミックが終わって平常運営にもどれば4歳5歳のクラスが園全体の運動会を企画することもできるでしょう。それができたら素晴らしいですね!
また遊びに来てね!リクエスト待ってるよ
日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ魂に残る楽しい学びの冒険 その実践例の第一弾「パンデミックで出来ないなら、今こそ始めよう!子供が自分たちで創る上げる小さな運動会」 いかがでしたか?「こんなことするの無理無理!」なんて手を振っているあなた、本当は「ちょっとおもしろそう 」なんて心のどっかで感じていませんか?「日本のみんなでやろうよ精神なんて古い!」なんて言っても、私たちはやっぱり青空の下で繰り広げられる、みんなが集って用意するお祭りが大好き!。そんなわくわく感、ぜひ子供たちと一緒に体験してみましょうよ!
また次回もお楽しみに!リクエストがあったら是非コメント欄に書いてください!