秋を見つけようよ!” のプロジェクト学習大冒険

 

目を疑うほど美しい日本の秋。四季はあってもあまりはっきりしていないメルボルンで、日本の紅葉した山を写真や映像で目にするとそこはもう驚きの幻想の世界。 私がメルボルンの幼稚園で子供を教えていた20年間、いつも強く思い返していたことは、日本の子供達がその美しい四季を通して自然界から学ぶことの「奇跡」ーそれはメルボルン(南半球の四季を通して)ではなかなか再現できません。自分が日本で育ってきたことを思い返してみても、日本の四季を通しての感覚学習は特別な意義があったように思います。そして、それが日本の素晴らしい表現文化の土台となっていることは、日本文化を体験したことのある人ならきっと誰もが感じることですね。

特に「秋」という季節は特別な季節のような感じがします。「芽吹き」の季節に子供たちの新しい学校生活か始まる、そしてその学校生活が充実した頃ちょうど「実りの秋」がやってくる。子供が季節の移り変わりとともに成長してゆくのが日本の先生方にとっては当たり前のように感じるかもしれませんが、「学校始まったら真夏だった」のメルボルンではそんなことは風流すぎる話ですし、また秋に学校が始まる北半球の欧米では「学校始まれば間もなく冬景色にクリスマス」の世界です。子供がキャッチする四季や時節感覚、そしてそこから育つ哲学文化も当然違ってくるはずです。

「季節と一緒に育つ」の文化を大切にする日本の教育。「実りの秋」をテーマとした教材を指導案に取り入れるのは日本では恒例です。そこで今年の秋は、「子供の主体性」を最重要視しながらも協調性の素晴らしさを体験できる学びのわくわく大冒険「プロジェクト学習」を、あなたの指導案に取り入れながら子供達と「秋」を堪能してみるのはいかがでしょうか?…という事で、今回の「日本の幼稚園で プロジェクト学習できるの?やろうよ子供が主体の楽しい学びの冒険 その実践例」は 「秋」題材にしたプロジェクト学習指導案の実践例をご紹介します。

この「日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ子供が主体の楽しい学びの冒険 その実践例」は幼稚園のプロジェクト学習実践例を紹介する長期シリーズです。 初回のプロジェクト型学習のイントロダクションはこちらからどうぞ。

基本的なプロジェクト型学習の流れ ちょっとおさらい

まず、ちょっと前回のおさらい「基本的なプロジェクト型学習の流れ」です。「読むのめんどくさい」という方はこのセクションは飛ばして読んでもらっても全然大丈夫です笑。

ここでご紹介する基本的なプロジェクト型学習の流れは、オーストラリアの初等教育指針(Early Years Learning Framework, 2009)と他の文献から学んだことを土台として、私自身がクラス担任の仕事を通して実践検証をしながら構築してきたもので、つまり私のオリジナルです。 (要するにプロジェクト学習は大変フレキシブルな学習・指導方法なわけです。) 鉄則は学習の主体はあくまでも「子供」だという事です。ですから、教師はほとんどのプロセスで「学習者」として子供の学習の冒険に参加して行くことになります。

  1. 「何やってんだろう?」(教師の子どもの観察と子どもの「知りたい」を認識 )
  2. 「じゃあ、これについて探検してみる?」(1の認識をきっかけとする教師の意図的アプローチ)
  3. 「こんな風にいろいろ探検できるよ。他のお友達も誘ってみよう」(教師の環境的、社会的アプローチ)
  4. 「何が一番おもしろい?なにが知りたい?」(子供と一緒に質問を探る)
  5. 「じゃあ、それについて調べてみよう。いろいろな人に手伝ってもらおう。君は何が得意?」 (絞った質問に対する共同的な調査や実験。タスク分担の経験)
  6. 「ああ、そうなのか。本当にそうなのかやってみよう」(仮説設定と実証実験)
  7. 「あれ、やっぱり、これだめだ、どうする?じゃあ今度はこうしよう」(試行錯誤のサポート)
  8. 「できた、わかった!みんなに見せてみよう!」(結論と共有)

と、こんな感じになります。プロジェクト学習はとてもフレキシブルなので、この基本に全て収まるわけではありません。ただ、基本はこのサイクルの循環です

教師の生徒に対する観察→教師の生徒に対する意図的なアプローチ→生徒にとっての質問を見つける→学習(探索)活動→教師の生徒に対する観察→教師の生徒に対する意図的なアプローチ→ 生徒にとっての質問を見つける→ 教師の生徒に対する観察→教師の生徒に対する意図的なアプローチ→(サイクル続く…)->学習結果の共有

 

それでは秋の不思議を見つけるプロジェクト型学習始めましょう

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プロジェクト型学習どうやって始めるの?

今回はいきなり「プロジェクト学習、こんな風になかも」話から始めてみようと思いましたが…よく考えると秋を題材とするプロジェクトの行方は無制限にあるので、まずはちょっと皆さんとどのようにこのプロジェクト学習を始めたらよいのかを見てみましよう。「想定できる冒険(プロジェクト学習)の入り口」は子供の会話に耳を傾けることで見えてきますよね。こんな感じかな?

子供もいろいろなことろで「秋」を感じます。あなたの教室の子供たちの間ではこんなような会話、ありますか?

「…だから、秋についてみんなで学べばいいんだよね?」とそこでつぶやいた人いますね? …ところがですね、「秋について学ぶ」という事になると、これは「プロジェクト型学習」ではなく「テーマ学習」という位置付けになってしまいます。皆さん、テーマ学習って聞いたことあります?おそらく70年代から90年代くらいまでの間に幼稚園生だった方は皆さんこの「テーマ学習」が主流だったと思います。 私たちは、みんな幼児教育のプロですから一応文献を開いてこの「テーマ学習」の概念を一緒に確認しておきましょう笑。

ちょっとその前に、私くろねこが「秋の落ち葉」を題材にして、先生方にインスピレーション動画を作りましたのでご紹介させていただきます。あなたの指導案作りや子供たちとの会話を広げるヒントになればと思います。タイトルは英語ですが、「葉っぱの道」という日本語の動画です:)

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テーマ学習とプロジェクト型学習の違いについて知っておこうよ

これはEarly Childhood Australiaというオーストラリアの政府教育機関のサイトのブログに投稿された保育士養成トレーナーであるKate Hodgekiss という人が書いた「テーマ学習」と「プロジェクト型学習」の違いについての説明文です。プロジェクト学習研究の第一人者 Katz & Chard博士の文献を裏付けとして以下のように書いています。

When we apply themes in early childhood we would usually choose topics that are fairly broad to allow us more movement within the curriculum; for example, one might choose ‘seasons’ or ‘space’ as a theme. Alternatively, projects should be defined by the direction of research; for example, a project might be ‘Why do people float on the moon?’, where the theme wold be ‘space’. While this specificity might seem restricting at first, the idea of a project is to follow the child’s line of enquiry, to observe the human narrative. This is something that themes do not allow for. In projects, children will determine the questions to be answered (Katz & Chard, 1992). 「テーマ学習」を適用するとき、私たちは通常、カリキュラム内でより多くの動きを可能にするためにかなり広いトピックを選択します。 たとえば、テーマとして「季節」や「空間」を選択する場合があります。 これに対して、プロジェクト学習は研究の方向性によって定義されるべき学習法す。 たとえば、プロジェクトは「なぜ人々は月に浮かぶの?」であり、テーマは「スペース」です。 この特異性は最初は制限されているように見えるかもしれませんが、プロジェクトのアイデアは、人間の物語を観察するために、子供の質問の線に従うことです。 これは、テーマ学習では許可されていないものです。 プロジェクトでは、子供たちが答えるべき質問を決定します(Katz&Chard、1992)。

堂々たる説明で言い切ってますね。 「これは、テーマ学習では許可されていないものです」という言い回しは、ちょっと日本語の表現にはなりにくそうですが、詰まり、「プロジェクト型学習は、子供の問いかけが主体となって進められてゆきますが、テーマ学習では(学習内容があらかじめ決められているから)そうゆうことはしません」という意味です。 Kate Hodgekiss はこのパラグラフの前に、こんな懸念も記しています。「未だにたくさんの教師がテーマ学習を取り入れることで子供はプロジェクト学習も経験していると信じているが、実際はこの2つの学習法には大きな違いがある」

オーストラリアでは、特にレッジオ アメリア スタイルの幼保育園では、保育士さんが「プロジェクト型学習」の実践に踏み切れるように様々なトレーニングを提供していますが、「プロジェクト型学習」はやはり「テーマ学習」と混同されがちで、なかなか、質の高い実践結果が得られない、というのが実情です。余談ですが、私が某チャイルドケアカンパニーでcurriculum leader のポジションにつ就いていた時も、リーダー定期会議ではいつもお偉方さんが向こうで「だからさあ、ほとんどのルームリーダー(主担任)たちはテーマとプロジェクトが違うってのがわかんないのよお」と叫んでいたのか愚痴っていたのか、「ちゃんと指導案のサポートしてよね!」と私たちCurriculum leader を横目でじっと睨んでいていたのを思い出します。彼女たち/彼らが「プロジェクト型学習」を本当に理解していたかは、謎ですが笑。ハッキリ言って プロジェクト学習 は机上論ではサポートできません。全ては先生たちの実践に基づいてサポートされるべきものです。

では、このプロジェクト型学習と テーマ学習 の違いを、「秋」をトピックにするという今回の例で考えてみましょう。 私がメモった「聞こえてきた子供の会話」チャートを見てみると、子供は「秋」について様々なことに気が付きいろいろな「不思議」を見つけますね。この中から一つの「不思議」に対して「どうしてだろう」を探り出すのが、プロジェク学習の始まりです。先生が「秋につい知ろう」と子供にいって始める学習は、初めから決められていた知識のフィールドの中での探検となり、探検のために訪れるポイント地点もあらかじめ教師によって用意されているわけです(まず四季について知るー>落葉樹について知るー>木の実について知る∸>動物の冬眠について知る、など)

Photo by Nong Vang on Unsplash

これに対してプロジェクト学習では、子供の「不思議」が スタート地点ですから、教師は全くどこに冒険に出るのか不明です。が、目の前には必ず堅固で明確な視界の道が現れます。どういうことかというと、プロジェクト学習は子ども主体なので、その出発点には「みんなわかるかな?」「興味があるのかな?」「話聞いてくれるかな?」などという教師の迷いや揺るぎが存在しないという事です、だって、子どもが不思議だと思う明確な問いかけ(例えば 「葉っぱの色はなんで変わるの?」という質問)に答えを見つけだすために、冒険を始めるわけですからね!一度始まってしまえばプロジェクト学習だからこその、楽しい迷い道がたくさんあります。しかしそれでも基本は「子供主体」ですからその迷いにも揺がない強い気持ちが、先生にも子供にも出てきます。大げさに言うと「葉っぱの色はなんで変わるの?知りたい」で頭がいっぱいの大冒険が繰り広げられることになる訳です。

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「秋になったら、こんな不思議が…」プロジェクトの実践例お話風。

という事で、本題を元に戻しましょう。皆さん、「秋をテーマとしたプロジェクト学習」というと、もう違和感がありますね笑。では言い直します。「秋になったら、こんな不思議が…」プロジェクト…てな感じで行きましょうか?え?このタイトルもやっぱり変?まあ、とりあえずこれで笑。

それでは行ってみましょう。「秋になったら、こんな不思議が…」プロジェクトの実践例、今回もまたお話みたいに書いてみます。(でも、これはあくまでも実践例です。プロジェクト学習は、「子供が主体」が鉄則です。なので、あなたの教室では、あなたの子供たちは全然違うプロセスを通って、あなたの子供たちにしかできないプロジェクトを作り上げる事になるでしょう。 でもご心配なく!この例は、私の20年間の数ある実践経験を思い起こしそれをもとに作ったので、「幼稚園あるある」級の、かなり現実味がある例になってると思います

プロローグ

教室の中に紅葉している木の枝を持ち込んで飾り子供たちが秋を感じられるようにしておく。

登園してきた子供たちが様変わりした教室にちょっと驚く。ナオミは「わあ」と歓声を上げた。

朝の挨拶の会で ミングンが「なんでこうゆうのとか(落ち葉)教室に付けたのお?」と私に聞く。プル‐が「秋だからでしょ。」で、私「秋になるとどうなるか知ってる?」。子どもが落ち葉やどんぐりのことについて言いだす。子供の体験談を聞いてから「じゃあ、そうゆうの幼稚園に持ってきて見せてよ」と誘ってみる。 「秋の収穫物」を集めて入れる紙バックに「お家の人への手紙」をつけて子供一人ひとりに渡す。親にはメールやコミュニケーションプラットフォームなどでお知らせもする。

写真上)メルボルン幼稚園くろねこ先生の4歳児クラスの教室、秋2011年 ‐これは偽りものの紅葉ですが、このテーブルはこの後みんなでで持ち寄った本物の自然素材でいっぱいになってゆきます。

秋の不思議を見つける (Find a question)

教室の中に子どもが持ち込んだ「秋の収穫物」を展示するコーナーを作って自由にさわったり観察できるようにする。虫眼鏡や秋の絵本なども一緒に展示する。私も子供といっしょに遊んで会話を広げてゆく。

ジョンが松ぼっくりの中から何か出てきたことを発見。これは何だろうという事になった。他の子供も集まってきて松ぼっくりの中から「それ」をパラパラとって遊び始める。

(写真上)メルボルン幼稚園くろねこ先生の4歳児クラスの教室、秋2016年 ‐ みんなで「秋のもの」を集めて持ってきた。メルボルンは日本ほど四季がはっきりしていないので、秋に限定しない自然素材を持ってくる子供も多い。それも彼らメルボルンっ子の秋の風景。この時も、やっぱり松ぼっくりから出てきた種が子供たちの「不思議」のテーマになった。

プロジェクト学習の始まり

グループタイムの時間に松ぼっくりの中から出てきたものは何だろうと話し合う。「それ種だよ」「えー違うよー種はそんな形じゃあないよ」などと討論になる。そこで、「これは種だ」と予測を立てて植えてみようという事になった。「それ」を植えて発芽するまでの間、「それ」がこれからどんなふうになるのか絵をかいてみることにする。どんな発芽になるのか想像できるように、いろいろな植物の発芽の写真を見てから、絵をかいてみた。絵はみんなが見えるところに、それぞれのの「予想」のことばを付けて展示。それをお迎えの時親が見たりして会話が広がる。みんな自分の予測が当たるかどうかちょっとワクワクしてくる。(松ぼっくりの発芽はこちらを参考にするのがおすすめ、だけど先生だけが見てね ー>https://www.youtube.com/watch?v=cNrbbPeGFJM

探究

発芽実験は毎日みんなで観察する。

発芽実験の合間には、皆で近所の自然公園に散歩遠足。ここでも松ぼっくりを探してみる。すると、ドングリなどの違う木の実も見つける。「これにも種があるの?」という会話になる。また、「木の実を食べる動物」というのも話のトピックになってくる。絵本を読んだりして木の実と動物の関係を発見して、自然のサイクルを知る。

Photo by Külli Kittus on Unsplash

プロジェクトの結果 (Learning Outcome)

「それ」からが出てきて子供たちは 「それ」は「やっぱり種だった」と結論ける。自分たちが予測して描いた絵がどのくらい実物と近かったかと話し合う。そして今度はみんなで実物の発芽の絵を画く。話し合いの結果、そのまま苗木に育てて松にして、そのまつぼっくりの種をいつか動物にあげよう、という壮大な計画をたてる。このプロジェクト学習の経過を記録したものを写真や子供たち絵と共に展示して(またはオンラインのコミュニケーションプラットフォームにアップロードして)親とシェアし、子供の学習経験とそれに伴った幼稚園教育要領の5領域に映して発達を確認しあう

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学習記録/ドキュメンテーション(Learning Evidence)

最後の学習の経過・成長記録についてですが、子供一人ひとりのドキュメンテーションについては、前回の「パンデミックで出来ないなら、今こそ始めよう!子供達が創る小さな運動会プロジェクト~日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ魂に残る楽しい学びの冒険 その実践例1~」のところで、少し詳しく例を上げてあるので参考にしてください。グループ全体としての学習記録は、 また近いうちに この「日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ子供が主体の楽しい学びの冒険 その実践例」シリーズの中でご紹介しようと思いますので、お楽しみに!

 

また遊びに来てね!リクエスト待ってるよ!

日本の幼稚園で プロジェクト型学習できるの?やろうよ子供が主体の楽しい学びの冒険 その実践例第2弾「秋の不思議を見つける」」 いかがでしたか?「こんなことするの無理無理!」なんて手を振っているあなた、本当は「ちょっとおもしろそう 」なんて心のどっかで感じていませんか?「日本のみんなでやろうよ精神なんて古い!」なんて言っても、私たちはやっぱり皆で繰り広げる大冒険が大好き!。そんなわくわく感、ぜひ子供たちと一緒に体験してみましょうよ!

「秋の葉っぱを使ってアニメ‐ション作り」を提案する記事も書いています。こちらも 「秋の不思議プロジェクト」の何かのヒントになるかと思います。よかったらのぞいてみてくださいね。

 

これからもユニークなプロジェクト型学習実践例の記事をどんどん出してゆきたいと思います。「ぜひ読みたい!」という方はぜひこちらクリックして定期購読をしてくださいね! 「こんなトピックでの実戦例を紹介してほしい!」というのがあれば、このページの下にあるコメント欄か、こちらのコンタクトページからぜひリクエストくださいね。また、くろねこ先生は「プロジェクト学習を自分の指導案に取り入れたい!」という先生方をメールを通してお手伝いさせていただいています。ご興味がある方はぜひこちらをクリックして詳細をご覧くださいね!

Reference;

Early Childhood Australia, Themes vs projects: Spot the difference

http://thespoke.earlychildhoodaustralia.org.au/themes-vs-projects-spot-difference/

こんなお話もあるよ!

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