「さあ、一緒に冒険に出かけよう。」

プロジェクト型学習って何?幼稚園でやって楽しいの?

みなさんは「プロジェクト型学習」という教育指導法について聞いたことがありますか?乳幼児から大学の研究活動まで取り入れることができる指導法ですが、「プロジェクト」と聞くと何だか堅苦しく感じますね。まして幼稚園、保育園で取り入れるなんてちょっと…と後ずさりしてしまいそうです。でも、実は プロジェクト学習 は先生と子供たちの心を虜にする「学習の大冒険」なんです!

オーストラリアはアメリカみたいな自由主義教育?

私は日本の大学で初等教育を学び2年ほど日本の保育園で働いた後、メルボルンに移住しから現地で20年間、主に幼稚園教諭として幼児教育に携わってきました(くろねこ先生の詳しい経歴はここをクリックして見てみてね)。私は日本でかなり保守的な大学で勉強し、これまた保守的な保育園で働いてましたので、メルボルンに来て自由な風潮の中で子供を教えられるのはとっても新鮮で楽しい経験となりました(しかしオーストラリアの幼児教育はこの十数年で新しい指針ができ、「質の向上」という名の下、急速に規則ずくめなりましたので、現在はこの自由な風潮というのもなくなりつつありますが…)。

とにかく私がメルボルンで幼稚園教諭として働きだした20年前はとてもリラックスしていまして(くろねこ先生の波乱万丈物語では私がどうやってメルボルンで幼稚園教諭になって、どんな物語があったのかをゆっくり書いていますので、ここをクリックしてぜひ読んでみてくださいね)、私が幼稚園教諭として、やりたいと思うことや、新しいことに挑戦するにはとてもやりやすい雰囲気でした。

オーストラリアはアメリカほど自由主義教育の風潮が強いわけではありませが、オーストラリアは民衆主義を生んだイギリスの領土ですから、子どもの自主性を重んじることをとても大切にします。日本で保守的な保育園で働いていた私にとっては、この自主性を重んじる教育はとても魅力的に思えましたので、私は自分の幼稚園クラスの中でどんどん「オーストラリア流」を実践していきました。躾文化の違いもあって驚くこともありましたが、「自主性や個性を見い出す教育」は毎日新しい発見があってとても楽しかったわけです。

子供一人一人が主体の「みんなで学ぶ」教育…それ矛盾?

けれど、私は日本人ですから、日本の教育の素晴らしいところも感覚的に知っていました。その中に「みんなで学ぶ」という意識があります。

みなさんはこの「みんなで学ぶ」という響きにどんな事を感じますか?正直なところ、あまり良い印象がないのではないでしょうか?この集合意識は一歩間違えると子どもたちのアイデンティティーを奪い、個性を奪い、もちろん子どもたちの自主性をも奪っていきます。子供の主体性が欠如した教育がどんな悲しい結果を生むかという例は、日本だけに限らず、どこの国にだってあります。

けれど、ここでちょっと想像してみてください。もし、この「みんなで学ぶ」の対象を子供だけではなく教師自身も含めると、どんな「みんなで学ぶ」ができあがるでしょう?

例えばこれはよく聞く会話です。

ケン; 先生、これ見つけたよ

先生; それはね、セミの抜け殻だよ

ケン; ふうん

先生; セミの幼虫はね、少し大きくなると殻を破って出てきてミンミン泣くんだよ

ケン;ふうん…

…とまあ、こんな会話、幼稚園でよくありますよね。 しかし、こうやって改めて会話を文字にして見てみると、このありきたりな会話は、はじめは子供主体で始まったのに、なぜかすぐに先生主体になっていることに気が付きますね。

ところが、これを、先生も「学習者」として会話をしてみるとこんな感じになります。

ケン; 先生、これ見つけたよ

先生; わあ、これなんだ?

ケン; なんか虫みたい

先生; だけど動いてないよー

ケン; 死んじゃったのかなあ

先生; 虫眼鏡で見てみよっか?

ケン; うん!(虫眼鏡で見てみると…)あ!なんか変

ナオミ; それ、セミの抜け殻だよー、知らないのオ?

先生; ふうん、抜け殻って何?

ナオミ; だからー…

ミングン; 僕も知ってるよー、見たことあるー

先生; じゃあ教えて、セミの抜け殻ってなあに?

ミングン; えっとー…

…なんていう風になるかもしれません。もしあなたがこの「先生」なら、この後の会話はどんな感じになると思いますか?あなたはきっと、子供たちにいろいろな資料やツールを使って自分たちで調べてみようと子供たちに提案してみるんじゃないでしょうか?そして、あなたもちろん、その調査に加わりますね。

Photo by Deb Dowd on Unsplash

さて、この会話は、ケン、先生、ナオミ そしてミングンと、4人の学習者で始まりました。 この後この4人はどうにか調べて、それが本当にセミの抜け殻だとわかったとします。 この時こそ、 「学習者」だった先生が一旦「先生」に戻る瞬間です。 あなたはすかさず「じゃあさ、セミの抜け殻のことみんなに話してみようか?」と子供達を誘ってみます。

さてさて、4人の学習者たちが自分たちで調べたことを教室のみんなにお話している時に新しい発展があるかもしれません。たとえばこんな風です。

ジョン; 僕もちょうちょの「抜け殻」見たことあるよー。

マリ; ええー!ちょうちょも抜け殻になんの?

タロウ; 違うよー青虫がちょうちょになるんでしょ!

…と、まあ、ちょっと収集がつかない会話になってきますが、ここは3歳、4歳、5歳(ちなみにオーストラリアは幼稚園は4歳までです)のクラスによって会話が違って来るでしょう。 この会話でたくさんの会話「フォロワー」が出てきますね笑。だんだん「みんなで学ぶ」体制が出来てきました。

ここから、私たちが何をするかというと、今度は、たくさんの学習者がこの「冒険」に参加できるような環境作りをして、会話をどんどん広げていってあげます。

 

「みんなで学ぶ」教育は教室にミニ博物館の設置をすること?!

 

環境つくりのために先生が何をするかというと、教室の一角に「セミの抜け殻」に関わるありとあらゆる物を使って、子供が遊んだり調査したりできる、「ミニ 博物館」を作ります。そして子供たちが自由遊びの時間に自由に来て遊べるようにします。ミニ博物館に置く物は、私がざっと思い浮かぶ物だけでもこんなものがあげられます。

  • 図鑑や絵本(子供が家から持ってきたものも含む)
  • 本物の抜け殻(子供が集めてきたもの)
  • 箱庭(トレイに土を敷き詰め、雑草、草花、石ころ、木の枝をおき、セミの登る木の幹をおく)
  • 虫のおもちゃ
  • あればライトテーブルと虫の標本
  • 虫眼鏡、探検隊の帽子、
  • 紙と鉛筆、自然系の色鉛筆
  • その他、子供がこのコーナーのために持ってくる物

最後に挙げたアイテムですが、これは親にメールで知らせて協力をお願いします。これによって親たちも意識してこの学習の冒険に参加してくれるようになり、会話も広がります。そして置くものはかならず、様々なスタイルで調査や探検できるようにします。例えば、虫眼鏡は科学遊びが好きな子に、帽子はごっこ遊びが好きな子に、そして紙と鉛筆はお絵かきが大好きな子のために…というようにです。

環境設定例 上の写真は数年前に私が幼稚園の一角に作った「熱帯雨林」の箱庭ミニ博物館。作った次の日なので、まだいろいろなアイテムが付け足されていませんが、まあこんな感じです。葉っぱは庭の雑草で、敷き詰めた土や真ん中の水のボウルに入っています。毎日スプレーで水をまきたり、草がしんなりしてきたら、新しいのをとってきます。子供はここで遊んだ後、自分たちでまたセットアップするように促されます。クラスに1~2人くらいは必ずそういうことが好きな子供がいます。ここに虫眼鏡や筆記用具、探検隊のヘルメットなどが加わります。もっと本も欲しいところですね。ちなみに、基本、オーストラリアの公立幼稚園は3歳と4歳のクラスが週の違う日に来るので教室はシェアという形になります。なので、4歳のクラスのプロジェクトのために作ったもので、次の日3歳のクラスが遊ぶこともあります。そのことによって、クラス間でのコミュニケーションが広がったり、また3歳の子供たちが、4歳のクラスがやってることにに興味を持ったりすることもあります。この時は私は3歳と4歳の両方のクラスを教えていたので、まあ、そんな良い効果もありました。

後は、先生もまた「学習者」に戻って一緒にこのコーナーで遊ぶのを楽しみましょう。 すると、面白いことに、子どもから いろいろな質問が出てきて、先生は同じ目の高さになって、それらの質問の答えをあれこれ吟味することになります。 一緒に遊ぶ中で一つ大きな質問に出くわしたり、又は質問を一つに絞ったら、また「先生」に戻り、絞った質問について「みんなで学ぶ」事を提案してみてください。これが「みんなで学ぶ」プロジェクト学習の始まりです。ここまでの経過時間は、毎日主活動の時間を使うとして数日から2週間ぐらいでしょうか。オースストラリアのように日によって子供のメンバーが違うという事になると、ちょっと違ってきますが。

 

さて、ここからプロジェクト学習が始まります!

今回の記事はプロジェクト学習の紹介記事ですから、セミの抜け殻プロジェクトについてこれ以上深堀はしません(次回からはたくさんの実践例を細かく紹介してゆきます)が、ここでどうしても明記しておきたいのは、この「みんなで学ぶ」を通して、そして一緒に遊ぶことを通して、先生は一人一人子供の個性を知り、それを、このグループ学習で活かしてゆく、という事が鉄則になるという事です。だから環境作りもいろいろな学習スタイルに合わせていろいろなアイテムを置いたわけです。

 

なので「みんなで学ぶ」の中でも子供によってかかわり方が違くなるのが理想的で、先生はさり気なくそれをバックアップしながらも、「みんなで学ぶ」が最高の冒険になるように仕向けてゆきます。簡単に言うと、例えばアイちゃんとシン君が違うスタイルで調査をして、それをグループの時間に、先生がうまくまとめて結論に持っていけるように仕向ける、という事です。 数字が好きなシン君がセミの抜け殻の長さを図って、絵の好きなアイちゃんがその長さを参考にしてセミの絵を描く、ってな感じです。

 

プロジェクト型学習は日本の教育文化に完全マッチ!

ここまで聞いて「なあんだ、そんな理想論、日本では当たり前じゃん」といった方、いますね?…はい、本当にその通りで、日本ではこの ’Sense of community’という素晴らしい感覚を昔から教育の場で大切にしてきました、それが日本の「和」を生む教育ですね。しかし、「理想論」とは言ったもので、たくさんの先生が「だけどそれは個性を生かした教育からほど遠い」というジレンマを抱いていらっしゃるというのが、現実ではないでしょうか?

オーストラリアでは、2009年に新しい初等教育指針ができてから、政府はさらに「個性を活かした、主体性を大切にした、自主性を尊重した」教育のさらなる…というより徹底させる事をめざしてきました。

そして異常な量のドキュメンテーションの責任に加えて、更に先生たちは、 「一人一人の子供のやりたいことや興味のあることをサポートして発達を促す」事を強く期待されるようになりました。

しかし、ここで私がいつも思っていたのは、「一人一人の子供のやりたいことや興味のあることをサポートして…」というのは 今の政府が作り上げた体制では無理で…、いや体制の問題ではなくて、そういうことは不可能です。これが、正直、現役教諭として、またはEducational leader(日本の主任教諭みたいなものでしょうか?)として若い先生たちの悩みに添ってきた私の現場で感じてきた正直な感想です。

では、子供の個性を活かした、自主性を重んじた教育とはただの理想なのしょうか?∸先生ならば誰でも、そうは思いたくありませんね。

この自己疑問に答えを出すために、わたしが、長年にわたってメルボルンで実践してきたのが幼稚園での「プロジェクト学習」Project-Based Learning(PBL)なのです。(「プロジェクト学習」の概念はこのページで詳しく説明していますのでここをクリックして見てみてください)前述したようにプロジェクト学習では、グループみんなで同じテーマに向けて「学習の冒険」をしていきますが、そのプロセスは常に子供が主体であり、また「みんなで学ぶ」の中にたくさんの子供の個性を活かすことができるのです。

 

くろねこ先生完全オリジナルプロジェクト学習実践例の紹介!

あなたも今すぐに日本の教室で子どもたちと唯一無二の「学びの冒険」に出ることができます!

今回、私が、このブログを通して、日本の先生方に自分の実践経験を長期のシリーズものとして紹介していきたいと思った理由は、始めにもふれたように、日本には、そもそも素晴らしい「和の教育」という文化があるからです。「和の教育」を知っている日本の先生方が「プロジェクト型学習」を取り入れたら、それこそ、子どもの主体性を軸とする、子供一人ひとりの個性を大切にした素晴らしい教育が実践されることのなるだろう!…と思った訳なのです。

しかし、オーストラリアでも日本でも、幼児のプロジェクト学習についての概念や世界中の研究資料をネットや本で調べることはできても、一般向けの楽しい 実践例に関しては、あまり情報がないように思います。けれど、これから私が紹介してゆく実践例はすべて、現場での子供の会話が聞こえてきそうな、他では見れない本当にユニークなくろねこ先生の完全オリジナル版の実践例です!

Photo by Clay Banks on Unsplash

という事で、今回は これから始まる長期シリーズ「日本の幼稚園でプロジェクト型学習できるの?~やろうよ魂に残る学びの冒険!完全日本語版」の紹介をさせていただきました。次回からは、ドンドン実践例を紹介してゆきますので、「見たい!」と思ってくださった方はコンタクトページから購読登録をしてくださいね。コンタクトのページは(ここをクリック)「こんな実践例が見てみたい!」などのリクエストもできます!

また、くろねこ先生は、「プロジェクト学習を自分の指導案にぜひ取り入れてみたい!」という先生方を、メールを通してサポートさせていただいています。あなたとあなたの生徒さんの実際の会話を聞きながら、どのようにプロジェクト学習を進めていったらいいのかを、メールでの会話を通して一緒に探り出していきます。ご興味がある方はこちらをクリックしてくださいね

先生も子供と一緒に魂に残る本当に楽しい「学びの冒険」一緒にしていきましょうよ!

次回もお楽しみに!

Photo by Caroline Hernandez on Unsplash

こんなお話もあるよ!

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