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日本の幼稚園でできるの?やろうよプロジェクト型学習、子供が主体の学びの冒険~ドキュメンテーション編 虎の巻第3巻「 プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅 」です!この ドキュメンテーション編 虎の巻では、9巻を10回の記事に分けて、プロジェクト型学習には欠かすことのできないドキュメンテーションの役割とその取り組みについて読者の方と一緒に考えています。まだ前回の記事を読んでない方はこちらから!

 

他にはない深掘り思考の旅、気楽で呑気なのに真剣でかつ情熱的、とってもユニークなくろねこ先生のオリジナル、最後の巻までゆっくりとお楽しみくださいね!こんな感じでやってます!

  1. 一の巻 ドキュメンテーションっていったい何?なんで英語よ?( この記事を読む
  2. ニの巻 ドキュメンテーションってどんなもの?Part1 ( この記事を読む)
  3. ニの巻 ドキュメンテーションってどんなもの?Part2 ( この記事を読む)
  4. 三の巻 プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅(今回はこの記事!)
  5. 四の巻 くろねこ先生のドキュメンテーションちょっと見てみます?(この記事を読む)
  6. 五の巻 オーストラリアの怖~い監査とドキュメンテーションのお話(この記事を読む)
  7. 六の巻 実は日本幼稚園教育要領さんは一番大切なパートナーだった!(この記事を読む
  8. 七の巻 どうやって日本の幼稚園で実践できる?指導計画に組み込まれたドキュメンテーション(この記事を読む)
  9. 八の巻 「こういうことする時間くれんならやってもいいよ」先生たちの時間戦争と勝算 (この記事を読む)
  10. 九の巻 「やらなきゃ実践」から「やりたい実践」への楽しい脱皮 「ああ、先生やってて良かった!」(この記事を読む)

日本の幼稚園でできるの?やろうよプロジェクト型学習~子供が主体の学びの冒険シリーズ~では幼稚園のプロジェクト型学習について、メルボルンの幼稚園を拠点としたくろねこ先生の実践例を紹介させていただいています。シリーズの初回記事のリンクはこちらからどうぞ.

 

それでは…今日のテーマに行きましょう!

三の巻 プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅

1巻2巻と一緒に資料を読み解いてきたのでちょっと疲れてしまいましたね。英訳の理解が難しい所もあって、くろねこ先生も頭がぐるぐるになってしまいました笑。今回の記事では、ちょっと文献資料から離れて、「プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅」と題して、実際にドキュメンテーションの取り組みをプロジェクト型学習の展開に沿って文面を見ながら想像体験してみましょう。

この記事を読むと、前回までのの記事で一緒に考えてきたことがかなりリアルになって、プロジェクト学習とドキュメンテーションの神展開的な相互作用をきっと感じていただけると思います笑。 きっと楽しい体験になること間違えなし、是非最後までお楽しみください。

 

ドキュメンテーション模擬体験の旅(笑)!「亜美ちゃんの傘」

このドキュメンテーション想像体験「亜美ちゃんの傘」は全くのフィクションで展開されますが、くろねこ先生20年間の経験をベースに創作されているものなので、あなたもきっと物語の展開に子供の生の息づかいを感じる事ができると思います。それでは、模擬体験の準備はいいですか?

一応設定は、保育園の4歳児クラスのお話です。18人のクラスで先生が二人。お話の季節は梅雨の時期です。

Photo by Apaha Spi on Unsplash

1「亜美ちゃんの傘」とプロローグ

お話part1:亜美ちゃんはお父さんと二人で暮らしています。ある大雨の日、亜美ちゃんの傘が壊れてしまったので亜美ちゃんはお父さんの大きな傘をさして登園しました。お父さんは亜美ちゃんを保育園に送り届けると急いで仕事に出かけてゆきました。

教室に入るとお友達の友恵ちゃんとマリーちゃんが「こんなに濡れちゃったよ~」と肩を見せ合ってゲラゲラ笑っています。そこで亜美ちゃんも自分のを見せようをしたらあまり濡れていないことに気づきました。

「亜美ちゃんのカッパ濡れてないねえ~」と友恵ちゃんとマリーちゃん。「ホントだ~」。その会話を聞いていたジャック先生、「受け入れ」をしたので亜美ちゃんがお父さんの傘をさしてきたことを知っていました。そこであえてこんな風に言ってみます。「亜美ちゃん、濡れなくて良かったね。だけどなんで亜美ちゃんだけ濡れなかったんだ?」「?だってアミ、パパの傘さしてきたんだもん」と亜美ちゃん。会話は別段これ以上なく傘の話はこれで終わりになりました。

 

 

あなたの模擬体験:さあ、みなさんもジャック先生になりますよ。とりあえず、小さな今日の話題としてこのことをお父さんにメンションしましょう。こんな感じかな?

ジャック先生のドキュメンテーション ; 連絡帳 「亜美ちゃんは、今朝お父さんの傘をさして来たのであまり濡れずに済んだとお友達と話していました。」

2. 雨傘はプロジェクト冒険に出るためののチケット?

お話part2:梅雨の季節という事もあって、ジャック先生は違う色の大人用の3つの傘を教室に飾ってみました。それからみんなに雨の日のお話を読んでみたり、もう一人の先生のリー先生も紫陽花やカエルの絵を壁に展示したりしてみました。ある時みんなでグループになっていた時、亜美ちゃんがふと天井に飾ってある傘を見て「あの傘さしたらあんまり濡れないねえ」とつぶやきました。

ジャック先生は、今朝みんなが歯磨きをしたかどうかについて話していたところだったので、亜美ちゃんが違う話をし始めたことにちょっと困惑しましたが、ちょっと考えて、「亜美ちゃん、なんで濡れないの?」と聞いてみることにしました。すると亜美ちゃんは「だってえ…」と言ってはにかんで笑います。「だってあの傘大きいからじゃない?」って言い始めたのはケント君。

「なんで?あの傘、みんなのより大きいの?」とリー先生もみんなの話に参加します。マリーちゃんが「あ、あれマリーののより大きい。」と言うと「うん、うん」なんて他の子供達も言い出しました。そこで「あれは大人の傘だから大きいの当たり前でしょ」って言ったのは幸助君。ジャック先生は面白くなって「でも、なんで大きいと濡れないのお?」と子供たちに聞いてみました。

するとすかさず幸助君が「当たり前じゃん、大きいんだからさ」と言います。「大きいとなんで濡れないの?」とリー先生もとぼけます。「だからもう!」幸助君はイライラし始めました。ジャック先生は何かを思い立って、傘の話はこれでやめることにしました。そして子供たちにこう言います。「ところで、今朝歯磨きした?」

あなたの模擬体験:なんか始まりそうな予感しません?とりあえず日誌に書いておきましょう。

 

 

ジャック先生のドキュメンテーション日誌 「もしかしたらこの会話に発展があるかも」と思い立ったジャック先生はとりあえず今日の傘の話のことを日誌に書いておいた。子供たちの会話を簡単に書き記してから最後に「この会話がどんなふうに広がるかちょっと興味深い」と感想を書く。

 

3.傘のサイズとおとぼけ先生たちの試み

お話part3:何日かしてまた雨が降り、徒歩登園の子供たちは傘をさして登園しました。。亜美ちゃんが新しい傘を買って貰って嬉しそうにやってきてリー先生に見せたので、先生はタブレットで写真をパチリと撮りました。お父さんもちょっと嬉しそう。亜美ちゃんはリー先生に「ね、アミの傘だからパパのより小さいでしょ?」と言いました

Photo by Dimitri on Unsplash

リー先生は先日のジャック先生の日誌に目を通していたので、亜美ちゃんの傘を見てニッコリ。亜美ちゃんと一緒にジャック先生の所に行ってわざと会話をしてみました。「ジャック先生、亜美ちゃん新しい傘買ってもらったんだって」。そこでジャック先生「おお!ちょっと見せて。ほら、この間、みんな天井に飾ってある傘は大きいって言ったじゃん?本当かどうかそれと比べててみるから」。

 

ジャック先生はちょっと大げさなアクションと取って傘を天井から外し始めました。幸助君、友恵ちゃん、マリーちゃん、ケント君、ミングン君、サーマート君など、クラスでも好奇心の強い子供たちが集まってきました。「先生、何してんの?」「だから、どっちの傘が大きいか見てるんだよう」。「この傘のほうが大きいって言ってるじゃん!」って幸助君。

ジャック先生は「ホントかなア?」とまだとぼけている。どういうわけだか、ジャック先生は長い物差しを持ってきて両方の傘の長さを測ろうとしました。そして一言「どうやって測るんだ?」。

いつの間にか、いつも一人でパズルで遊んでいるあっ君がそばに来ていてジャック先生が持っている物差しに書いてある数字を指さしました。「え?なに、あっくん?この数字?」ジャック先生があっくんをジっ見つめるとあっくんは、どうしてか嬉しそうに「ぐふっ」と笑いました。

マリーちゃんが横から入ってきて「先生、この数字読むんだよ!」と、あっ君を抑えるように得意げに言います。 幸助君はなぜか怒ったようにあっちに行ってしまいましたが、ジャック先生は構わず物差しを亜美ちゃんの小さい傘にあてて長さを測ろうとしています。

「50センチかあ」とジャック先生が言うとケント君が「ちょっと貸して」なんて言ってジャック先生から物差しを取り上げ(笑)、長さを測る(真似をする)と今度はミングン君がそれを覗き込み「これは、えっと…50センチ!」なんて言っています。みんな100まで余裕で数えられるけど数字を100まで読める子はまだいません。

そんなこんなで、子供たちはジャック先生に教えてもらって、大きい傘が(直径)150センチで小さい傘が(だいたい)50センチということが分かりました。ジャック先生はとりあえずこのことを大きな紙に絵にして描いてみました。

ジャック先生は、お絵かきをしながら事の次第を静かに見ていたアイちゃんに「色、塗ってくれる?」と頼むと、アイちゃんは恥ずかしそうにやって来て傘に色を塗ってくれました。他の何人かの子も来て手伝います。ジャック先生はその絵を壁に貼りました。こんな感じです。

 

あなたの模擬体験:さあ、どうします?先生のアプローチもあってか、子供たちは結構「傘のサイズを測る」に興味を持ったようです。これはちょっとしたプロジェクトに発展しそうですね?あなたなら、ここに学習展開を起こすために、次にどんな計画を立てますか?

ジャック先生は、取りあえず、この「長さを測る」体験で子供たちに自由に遊んでもらおう、と決めました。それからどうなるかわかりませんが、自由に遊ぶ中、子供たちの「知りたいこと、やりたいこと」が出てくるかもしれません。

Photo by Sigmund on Unsplash

少し補足ですが、「直径を測るなんて幼稚園生にできないんじゃない?」の「できないんじゃない?」と教師が疑問を抱くのはプロジェクト学習ではタブーです。対象の子供は4歳児なので、ここでは「直径を測る」ことを学習するのが目的ではなく、「長さは自分達で測れる」を知ることが目的です。

そこで子供が「センチメートルっていうんだよ」とか「丸いのはチョッケイっていうんだ」とかを知ることは、ここでは単なる「新しい概念との出会い」なので、それぞれの子供がどんなコンセプトに出会うのかはサプライズ。きちんとしたやり方や絶対算数的な正解にこだわる必要もありません。

計画を立てたらごく簡単に週案に書き込みましょう。プロジェクト型学習の週案への書き込み例はこちらをクリック!

 

ジャック先生のドキュメンテーション 週案と学習展開記録の始まり :計画を週案に簡単に書き込み、学習展開の記録を始め、週案との記録のつながりをはっきり記しておく。(プロジェクト型学習の週案への書き込み例はこちらをクリック!)学習展開は文章で簡単に記録した。「子供が物差しに興味を持った」「ケント君とミングンは好奇心でいっぱいのようだった」は記録しやすいが、この他にも 個々の観察として、「幸助君は意見をしたが長さ測りには参加しなかった」「あっ君が物差しの数字をみつけた」「僕の声掛けで、アイちゃんがお絵かきを中断して色を塗るのを手伝ってくれた」など特記すべき個人のレスポンスも必ず記録する(これはその日の連絡帳にそのまま使ったり、後で個人記録に役立てたりするという理由もあるが、グループプロジェクトを成功させるには一人一人の子供の学習展開をきちんと理解する必要があるからだ。)

学習展開の記録 -ファイル型ドキュメンテーション

このプロローグの段階では、教師も試行錯誤中だから理論(前回記事を参照)はいらないが、その代わりしっかりと記録と計画を立てる。ジャック先生の計画は、まず、子供たちに自由に探索してもらうために「傘の長さを測って遊ぶ場所」を設置することだ。(プロジェクト学習の過程で必要な遊びの環境作りについてはこちらの記事をクリック!

 

またジャック先生が描いた「傘の長さの絵」のポスターは子供たちが見えるところに展示しておき、タブレットで写真を撮って展開記録に貼り付ける(コピペする)。展開記録はとりあえずプリントアウトしてファイルする。

展開記録を読んで、リー先生は子供が長さを測って遊ぶための「サイズが同じ積み木」を用意することを提案したので、それも記録に追加し環境設定の計画に付け加えた。この積み木には、子供の遊びを観察する経過の中で、数字をつけたほうがより効果的であると気づき、数字を貼り付けた(つまり、物差しを読まなくても並べた積み木の数で長さを測ることもできる。)

4.傘と物差しと子供探検隊

お話part4:先生たちは教室の一角に今度は大きさの違う3つの傘を、今度は子供の手の届く位置に飾り、そこに物差し、サイズが同じ積み木、紙、鉛筆、数字の本やポスターなどを置いたテーブルとイスも設置しました。先生たちは一週間ここで子供たちと一緒に遊び、子供がどのように遊んだり会話をしたりするのかを記録しました。

一緒に遊びながら、たくさんの子供たち、特に一番初めの時参加しなかったけど気になってきた子供達も、ここで遊びながらブロックを使って長さを測ることを知りました。幸助君はブッチョウズラでしたが一番遊びに来た回数が多かったのも興味深いところでした。

ジャック先生のドキュメンテーション :ここでは子供たちの会話を毎日記録して写真を撮る。(そこれはそのままコピペして日誌に使ったり、連絡帳に使ったり、個人記録に使ったり、「おたより」に載せたりできる。)プリントアウトしたものも展開記録のファイルに追加してゆく。

 

5.それは「みんなどの傘がいい?」から始まった

お話part5:木曜日になると先生たちはみんなをグループにして一緒に3つの違うサイズの傘の直系の長さをもう一度測り、それを子供たちと一緒に大きな紙に記録し「傘の長さ測りチャート」を作りました。遊びの中で子供たちはやり方をもう経験したので得意げです。

今度は数字や絵は子供たちが描きます。このチャートの中の傘は大きいのも小さいのも、子供たちの絵に書き込みによってとてもユニークでかっこいいものになりました。

「傘の長さ測りチャート」-みんなで輪になった話し合いで、順番に書き込んだり、小さなグループに分かれて絵を描き込んだんだりする

それから、そのポスターを見ながら先生は子供たちに聞きました。「みんなどの傘がいい?」すると ハオラン君が即座にこう答えました。「一番大きいの!」で、先生は聞きます。「なんで?」ハオラン君はちょっと困ってしまいました。

すると亜美ちゃんがうれしそうにオハラン君の顔を覗き込むように言いました「大きいほうが雨に濡れないから?」。オハラン君ははにかみながら「うん」と答えます。そこでジャック先生は「よし、じゃあ、試してみよう!」と突然言い出しました。

「どうやってえ?」ケント君が聞きます。「ホースで雨降らせて」とジャック先生。「ええーっ」と子供たちは騒ぎました。「明日さ、みんな傘持ってきてくれる?」。と先生が言うと「あたし、キティちゃんの傘持ってこよっと!」「僕バットマンのやつ!」とみんなエキサイティングになってきました。

そこで「カッパもいる?」と小さな声で言ったのは英二君。英二君はいつも静かだけど、グループの話し合いにきちんと耳を傾けているのがわかります。「そうだ、カッパもいるね」ジャック先生が賛成すると英二君はにっこり。

Photo by Vitolda Klein on Unsplash

するとテーブルを拭きながら話を聞いていたリー先生も応援に入りました。「ジャック先生ね、大きい傘と小さい傘とどっちの傘を買ったらいいかまよってるんだよー。

ジャック先生はホントは子供用の小さくてもかっこいい車の絵が付いた傘が欲しいんだけど、この間みんなが大きいほうが雨に濡れないって言ったから、どうしようと思ってるわけ。」これを聞いて子供たちは愉快そうにくすくす笑いました。

 

ジャック先生のドキュメンテーション 壁面型ドキュメンテーション の開始 ; この「傘の長さ測りチャート 」は、子供と先生が話し合いの場で簡単な文を使って直接記録し、後から子供達が見直した時はっきりわかるように先生が調整を加えた。チャートを作る過程も写真に撮る。これを壁に展示して壁面型ドキュメンテーションを展開させる。

Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

この壁面型ドキュメンテーションを写真に撮って、展開記録のファイルにも追加する。この写真はそのままコミュニケーションプラットフォーム(またはおたより)を使って子供の親にも送られ、親に、「そんな理由で、お子さんに明日、大人用と子供用の両方の傘とカッパを持ってくるようにお願いしました」と協力をなげかけた。この親へのメッセージも 展開記録のファイルに追加する。

 

6. 「大きい傘をさすと本当に濡れないかの愉快な実証実験

お話part6:次の日、親たちは子供たちを送り届けるときに様々にコメントをしていきました。大抵は「うちの子、昨夜から幼稚園に傘を持っていくのが楽しみで仕方なかったみたい」みたいな感じのコメントでしたが、他にも「なんか結構ユニークだね」「傘で何すんだか知らないけど」「本当に傘なんか必要なんですか?」など親たちはいろいろなことを先生たちに言いました。これは「親は疑問に思ってるみたいだけど、子供たちの活動にとりあえずは注目している」という証拠だと先生たちは思いました。

先生と子供たちは園庭できゃあきゃあ言いながら「大きい傘をさすと本当に濡れないか」の実証実験を楽しみます。そして教室に帰ると、ジャック先生は「小さい傘をさしたときと大きい傘をさしたときの「自分」をちょっと、絵に描いてみてくれる?」と頼みました。

リー先生は「雨の音」を流して雰囲気をつけ、子供たちは楽しさの記憶がフレッシュな時だったので、夢中で絵を描きました。

Photo by Sven Brandsma on Unsplash

事物の輪郭がはっきり描かれていない絵もたくさんありましたが、共通していたのはホースの水が傘の上にバシャバシャ降ってくるのが生き生きと描かれていました。また月齢が高い子の中には傘を伝わって滴る水を「大きな水玉」と「小さな水玉」で表現している子もいました。

先生たちは、自分の絵を見て話す子供たちのお話を一つ一つ聞いて、それらを簡単に記録してゆきました。

 

 

ジャック先生のドキュメンテーション :ジャック先生はリー先生と話し合いの時間を作り、2人で子供たちの絵とそこで話されたお話を見てみた。全体的に子どもたちは大きな傘に入ると全く水に濡れなかった事を、観察というよりも感覚的に感じたことを読み取った。

Photo by Headway on Unsplash

そしてそこから生まれたお話は大変ユニークであった。先生たちは亜美ちゃんの話に興味を持った。「アミは新しいピンクの花の傘が好きだけど、パパの傘のほうが大きいのでイイなと思った。大きい傘と小さい傘が一緒だったらいいのに」。また英二君は「カッパに大きな傘がついてたら絶対濡れないね」。幸助君のはこうだ「中ぐらいの傘だったら丁度いいんでしょ?80センチくらい?」。

子供たちのこんなお話を見ながら二人の先生たちは「さて、ここからどうしよう」と笑って考えたがその日は答えがでなかった。絵はそれぞれ縮小写真になって子供たちの「小さなお話」とともに展示され、壁面型ドキュメンテーションに追加された。そしてそのアップデートしたドキュメンテーションをまた写真に撮り、それが家庭に送られた。

 

7.プロジェクト大冒険への招待状

お話part7:次の日。亜美ちゃんと友恵ちゃんとマリーちゃんが「傘の大きさを測って遊ぼう」の場所から傘を持ってきて,教室の端っこで何やら遊んでいます。見ると傘をお家の屋根に見立ててその下で「パパママごっこ遊び」を始めたようです。

ところが、狭くて場所取りの言い合いになってしまいました。ジャック先生は「傘の家の写真」を撮ってから、子供たちを黙って観察していました。3人の子供たちは結局傘の家で遊ぶのをを諦めてしまいました。

 

Photo by Kai Wei on Unsplash

みんなでグループになった時、ジャック先生は子供たちに亜美ちゃんたちが作った傘の家の写真を見せて言いました。「傘、小さすぎたの?」と先生が亜美ちゃんたちに聞くと、子供たちはそのことを先生が知ってた事にちょっと驚いてから、「うん。」と言って恥ずかしそうに笑いました。

そこでミングン君の一言。「じゃあ、大きい傘の家作ったら?」。「どうやって?」と友恵ちゃん。「大きい傘で。」これはケント君。「200センチくらいの傘がいいんじゃない?」と幸助君。「そしたら雨に絶対濡れないねえ」とけらけら笑い出したのは亜美ちゃんでした。

Photo by Izzy Park on Unsplash

リー先生はここぞとばかりに子供たちの会話をホワイトボードに簡単なイラスト交えて直接記録にとりました。子供達は自分たちの言葉が聞かれて文字や絵になっているのを意識し始め、お話はさらに活発になっていきました。先生たちはなるべく口を挟まずに根気よく子供たちのお話を聞きました。

話は「教室中に一番大きな傘をいっぱい並べて大きな家を作ろうよ」っていうような事になりました。ジャック先生は子供たちのひらめきが熱いうちに、「傘のお家プロジェクト」の計画を立てるように話を持っていきました。「だけど、そんなにたくさんパパたちの傘使ったら、パパたち雨降ったらどうするのお?」と素晴らしく現実味のあることを疑問にしたのはオハラン君でした。

Photo by Osman Rana on Unsplash

また沙織ちゃんは「パパの傘だけじゃなくてママの傘も持ってきていいことにしようよ」と提案しました。それにケント君が「傘並べたらごちゃごちゃだよ」って言ったので、みんなでまた考え直して、先生たちのアイデアも借りて「天井に吊るす」ってことになりました。テープで止めるっていう意見も出たけど ミニ実験をしたりしてみて、それはいい考えではないという事になりました。

 

Photo by SMigaj on Unsplash

話し合いの結果、「傘のお家を作ろう」プロジェクトは雨の降らない日を選んだ一日限りのプロジェクトにすることになりました。それならパパやママたちも困りません。子供と先生たちは次のような計画を立てました。計画も先生と子供たちがイラスト入りで一緒に作りました。

  • プロジェクトでパパとママの傘がいるから、パパとママにそれを知らせるために手紙を作る。
  • パパの傘(一番大きい傘)は「チョッケイ」が150センチ、ママの傘が60センチ。あらかじめ、教室にどの傘が何個入るのか、ものさしやブロックを使って計ってみる。
  • 傘はロープで吊る(ひっかける)ので、事務室に行ってロープを用意してもらうように頼む。
  • その日は一日中傘の下で遊んでお昼ご飯も食べる。「嵐が来たからお家に入れゲームをして遊ぶ」。傘の下で先生の人形劇を見る。記念写真を撮って家族に見せる。

 

ジャック先生のドキュメンテーション :学習の展開がいよいよ面白くなってきた。亜美ちゃんたちの傘の家の写真は、プロジェクトの展開の方向性を決定づける資料となった。ドキュメンテーションのには、この小さな傘の家の写真から始まり、グループでの話し合いの記録(リー先生がホワイトボードに記録したのを写真に撮ったもの)、そして立てた計画のリストを写真に撮ったもの、話し合いの時の子供の様子の写真などが追加された。

Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

そして子供たちが自分たちで作った「パパとママへのお知らせの手紙(先生の公式の手紙も添付されている)」の写真、子供たちが教室の長さを計っている時の写真、園長先生にこのことをお話したり、事務の先生にロープのことを「交渉」している様子の写真なども、経過を追って追加され、それらはさらに学習展開のファイルにも簡単なステイトメントとともに追加されてゆく。

Photo by Adam Winger on Unsplash

もちろんこれらはプロジェクトの経過途中として親にもシェアされる。このころになると、壁面ドキュメンテーションは壁いっぱいに広がり、かなり強いインパクトを持って子供たちのさらなる探検意欲を刺激するようになる。子供達は壁面ドキュメンテーションで全体的な流れを意識し、自分達は何か大切な旅の途中にいるんだ、ということを感じるようになった。

 

8. 「傘でお家を作ろうよ!」はみんなを笑顔に!

 

お話part8:ジャック先生とリー先生は子供達のすべてのプロジェクトの準備、そして当日の傘の家の制作の様子をビデオに収めました。これはプラットフォームを使って親ともシェアをしました。親からはたくさんの応援のコメントがありました。

「傘のお家を作ろう」プロジェクトは大成功で、子供たち一人一人に、違った発達エリアでの影響をもたらしました。たとえば数字に強い子供たちは、まさに「長さを測る」、しかも「丸い物」の「チョッケイを測る」という意味を学び、感受性の強い子供はさらに創造性を掻き立てられ、それまでどちらかと言うと心を閉ざしていた子供は心の解放感を味わいました。

また、たくさんの子供たちのコミュニケーションを活発にさせ、共同で何かをすることの楽しさを味わうこともできました。さらに、子供の親たちは、始めは半信半疑ではあったものの、ドキュメンテーションをみたり、毎日の先生との会話で、「雨傘」から始まった子供の学習がどのように展開しそれで子供が何を学んだのかを感じることができ、これを通して先生たちも、親御さんとの信頼関係が出来るきっかけとなったと実感しました。

Photo by Jhon David on Unsplash

このプロジェクトイベントが終わったすぐ次の日、ジャック先生はまた子供たちに「傘のお家」で遊んだことを絵に描いてもらいました。そして、子供たちのその絵についていろいろなお話をしてもらい、それも書き込みました。子供たちの絵やお話は子供たちが体験した「傘のお家を作ろうプロジェクト」がそれぞれの子供たちにとって本当に楽しい経験であったことを先生たちに教えてくれました。

 

子供たちは、傘のお家を作った経験から広がった自分たちの想像上のお話を楽しく話してくれました。また、先生たちは子供たちが描く「傘」の絵が、一番初めに描いてもらたもののより、少し詳しくなっていることにも気が付きました。例えば、傘の柄の形や、骨組みの先端留めなど、子どもの事象の観察が少し進んだこともわかりました。

亜美ちゃんの絵 「大きい傘だったら、雨の日にぞうさんと一緒に入っても濡れないね。パパも濡れないよ。」-子供たちがしてくれたこんな愉快なお話が「傘のプロジェクト」をさらに創造的なプロジェクトに発展させてゆくかもしれない、と先生たちは思いました。

 

ジャック先生のドキュメンテーション :先生たちは、再び話し合いの時間を持ち、撮ったビデオを観たり、親からのコメントを見直したりしながら「傘の家プロジェクト」が子供たちに何をもたらしたかを話し合った。

Photo by zhenzhong liu on Unsplash

ジャック先生はこのプロジェクトで一人一人の子供が何を得たのか、そしてグループ全体として何を学習できたのかを、ドキュメンテーションの最後に追加した。そして、最後の子供たちに描いてもらった絵を見ると、「傘のお家を作ろう」プロジェクはもしかするとさらに展開するかもしれないとの予測も書き加え、子供たちの観察記録をさらに続けていくことを記した。

「傘のプロジェクト」を軸とした個人記録の例 :展示型ドキュメンテーションの写真をそのまま添付することで全体的なプロジェクトの展開が理解でき、その中で英二君がどのようにレスポンドし、どんな学習が展開されたのかが記録されている。今後のプロジェクトの展開では、英二君の学びを先生がどんな風にサポートしてゆくべきかを必ず記す。この記録例は、子供に語りかけるスタイルの記録になっていて、ニュージーランドのテファラキ教育法やオーストラリアではよく使われる記術法だ。

 

…とまあ、こんな感じです!

どうでしょう?ドキュメンテーションの模擬体験、楽しめましたか?想像上ですがこの展開を一緒に体験してみると、プロジェクト学習はドキュメンテーションをせずには展開していかないのが、よくわかっていただけたと思います。特に「子どの会話を聞いた直接のドキュメンテーション」は、教師のアナライズ記述の段階よりも、もっと重要であることを感じた方は多いんじゃないでしょうか。これがまさに プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅です!

 

続きは次回の記事で!

虎の巻第3巻「プロジェクト学習とドキュメンテーションの二人三脚の旅」いかがでしたか?虎の巻第4巻 「くろねこ先生のドキュメンテーションちょっと見てみます?」はここをクリック。ぜひまた遊びに来てくださいね。

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くろねこ先生の「日本の幼稚園でできるの?やろうよプロジェクト型学習、子供が主体の学びの冒険シリーズ~ドキュメンテーション虎の巻全集~」次回もお楽しみに!

Photo by Jonathan Borba on Unsplash ‐生活の中のどんな体験も子供が何かを探究したり学んだりするきっかけになる。街での体験は子供にたくさんのインスピレーションを投げかける。

こんなお話もあるよ!

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