オーストラリアで上司に挑む。

されど戦場は幼稚園。

つまらない職場はさっさと退散。

前回の読者のみなさんはくろねこの地下鉄落下事件の詳細を知りたいと思っているだろうが、これはくろねこ先生の愉快痛快奮闘記であり、奮闘記には予測不可能的な展開はつきものだ。地下に落下したくろねこ先生は、読者の「いったい何が起こったの?」の好奇心を退き、何を隠そう、さっさとその職場をやめてしまった。くろねこ先生は基本風来坊なのである。面白くなければ、辞める、これが基本である。「こういうどんでん返しがあるからからくろねこ先生の奮闘記は面白いッ」ってのを狙っているわけだ(笑)。

一応、気になっている読者のためにちょっと書いておくが、「地下に落下した」というのはただの比喩で、つまり簡単に言うと、私が某公立幼稚園のエジュケーショナル.リーダー(って何か?の詳細はこちらからとして新たに導入しようとしたことへの他の先生たちの賛同が得られなかったわけだ。「賛同が得られないなんてのは何か新しいことをやろうとするときには必ず乗り越えなきゃならない」となるわけだが、エキサイティングな役者も舞台もそろってないなら、「だめだ」とバッサリと見切りをつけちゃうのも結構大事である。

このお役所が建てた「オーガナイゼーション委託型(って何?の詳細はこちら)」のこの幼稚園は、設備こそ超最新であったが、実はこちらの期待に大いに反して、ファイナンシャル管理の面でも人材育成の面でも、そして一番大切な教育哲学の実践研究という意味のおいても、全てが準備不足であった。「これじゃ、頑張って奮闘しても面白い奮闘記には絶対ならないッ」と見切りをつけ、くろねこ先生はサッサと辞表を出したわけである。我ながら愉快痛快である。

オーストラリア幼稚園先生の就活事情

「だけど仕事辞めたら経済的に不安じゃない?」なんて聞かれそうだが、そこは、以前も書いたが、世界的な教師不足の昨今様さまである。特にオーストラリアではここ5年間くらいで幼稚園教諭がさらに不足になり「もっといいところに転職!」の風潮が強い。州政府管轄の幼稚園でさえ地方の先生を集めるのに「採用決定の先生には地方への引っ越し代も含めて1万ドル(約100万円)あげます!」なんて言って募集をかけてるくらいだ。こんなんだから、みんな条件のいいほうへと流れて、年の途中であってもどんどん移動が起こる。それにオーストラリアが誇る最強の労働組合は我々就業者の転職の自由を徹底して守ってくれるから心強い。

こんな状況なんだから、「いやだッ」と思ったところなんぞはさっさと辞めて、熱血運営陣が斬新なアイデアをやろうとしている園に移動して奮闘記を書くほうがずっと面白いだろう。

そこで、くろねこ先生が、次に矛先を向けたのは、今度はこれまでの新設幼稚園から打って変わって真逆のお局幼稚園であった。

オーストラリアの子ども園

大きな移民コミュニティの真ん中に建てられたその公立施設は、統合型の幼児施設(Integrated early years service)としては、オーストラリアでは一番初めに建てられた施設らしい。日本の子ども園なんかと同じコンセプトだと思うが、我らのIntegrated early years service の場合、保育園と幼稚園の他に、乳幼児のためのおもちゃ図書館(Toy library)、母子保健のコンサルティング ルーム(Maternal health centre)、療育セラピールーム(Early intervention)、乳幼児と親たちのプレイグループ(Play group)、そしておなさい子供の親たちや幼児教育の専門スタッフが利用する会議室やトレーニングルームなどの施設が備わったわりかし規模の大きい施設である。

この施設をモデルにして、その後、ビクトリア州のいたる地域で同様の統合型幼児施設が建てられていった、という、ま、ちょっとした歴史を誇る施設なわけである。本来は、他国から受け入れた難民家族とその子どもたちの教育を全面支援するのがミッションであったと思うが、オーストラリアの経済高度成長に伴って今ではこの地域も裕福になりつつあり、目指すものも変わってきたのかもしれない。

こども園のカリスマ園長と恐ろしい魔法の本

しかし、そのような背景から、現在でも多様性文化(Diversity)を受け入れる教育に重きを置いていることは変わりなく、その面では政府のいくつかの研究プロジェクトに貢献してきているはずだ。

この施設のヘッドを務めるのは、そういった研究を何が何でも自分の手で推し進めようとする、物凄いカリスマ性おばん、ベシー ランド(仮名)くろねこ先生の新しい大ボスである。

「カリスマ」ってのは、本当は神々しい光を放ってる人物につけられる形容何だろうが、このカリスマオバンの場合、間違ったカリスマ オーラが放たれていて、誰一人として口答えできるものはいない。なんでかっていうと、彼女は才女と女神のオーラも同時に放つというとんでもない魔女オバンだったのである。

私が魔女オバンや、気づかんかったのかい、愚かやね~

「教養と知識にあふれる素晴らしいボス」のもとで働くことこそがが、長い間くろねこ先生がこの世をさまよいながら夢見ていたものだ。くろねこ先生はこの分野では権威の一人だと言ってい良いだろうこのベシー ランドのことをずっと前から知っていて、実は長い間、このオバンのところで働くことが念願でもあった。今回の転職騒動で運よくその機会が訪れたので、10人ほどのスタッフで構成されるチーム. ティーチングのリーダーのポジションに応募みたわけである。オバンも実はある事情でくろねこのことを知っていて,  彼女はくろねこの採用を即決した。いくら教師不足の昨今でも、これは物凄いラッキーであった。

しまった、魔法の毒リンゴたべてまった!

が、おばんは実は魔女オバンであったことを、くろねこは何と働き始めたその初日に見抜いてしまったのである。「うえ~い、やった、やった~」というお祭りムードは、オバンの得意な才女と女神の不気味な微笑みで「ひょ~ん」と一気にぶちまかされてしまった。ものすごい威力である。「おお、これがカリスマっていうやつか~」とくろねこ先生は心の中で叫んだが、とっさにこうも付け加えた「なんか変だ~」。

魔女オバンの不気味な楽園

魔女オバンの夢は子どもの「主体的に生きる」権利を徹底して尊重した子供の楽園を「自分のカリスマ」をもってして(ここが重要だ)実現させることだ。魔女オバンはふしぎな魔女ブックを読みつくして日々の研究を絶やさないので、人を操るありとあらゆる魔法の言葉を知っていた。魔女オバンは、自分が人を虜にするような情緒あふれる言葉のシャワーでスタッフを洗脳したことを自己確認すると、次の日は決まって豹変してスタッフの駄目だしにかかる。「Now, I told you yesterday? (さて、あなたに昨日言ったわよね?」が決まり文句である。

その後は全てのスペースをくまなく回って「昨日言ったこと」をスタッフが徹底して実践しているかを見て回るわけだ。「オバンが昨日言ったこと」をスタッフが実践していなかったら、恐ろしい。オバンは一言二言女神のような不気味な言葉をつぶやくと、次の瞬間には無言になって自分の手で強行手段にかかる。子どもが使うおもちゃや教材の配置、子供への言葉がけマナーから親へのアプローチ実践と、オバンの「子供の楽園」という徹底した思想に少しでも反するものがあれば、容赦なく、有無を言わさず、変更が断行される。

こども園カリスマ園長の「空間の開放」思想

こんなんだから、魔女オバンの朝は早い。毎朝クインズランド州で採れる国産ワニの生卵でも食べているに違いない、ものすごいカリスマ威力のオーラをまき散らしてやってくる。魔女オバンが朝教室に現れると空気が緊張し凍り付くのだ。

こうなってくると、幼児教育に携わっていない読者さんでも「一体その魔女オバンは具体的に何を強行するのか」と興味がわくんじゃないだろうか。

説明しよう。

魔女オバンの「子どもの楽園」には、「ドア」があってはならないのである。子どもが遊び、学ぶ空間のドアというドアを徹底して排除する「Open doors」という「空間の開放」思想である。「Open space」というほうがわかりやすいかもしれない。詳しいことはおいおい話すとして、とりあえずここで簡単に説明すると、この施設には乳幼児教室が6つあり、どの教室もダイニングスペースとして広がる大きな長い廊下でつながっている。これらの教室の仕切りドアと廊下につながるドア、さらにはすべての物置のドアまでもを全て開放し、一日中、0歳から5歳までどの年齢の子供達もが自由に施設内の空間を行き来できるようになっているわけである。さらには、大変よく考えられて造られた3つの「探検型」の園庭(って何?はおいおい話してゆくが)に続くドアも全て一日中開けっ放しという徹底ぶりである。

ドアはもっと大きいが、こんな感じになってる。

魔女オバンは、朝の見回りで、少しでも各空間の境のドアが閉められているのを目撃すると、血相を変えて「ガラガラガラッガンッ」と威嚇するように開け放つ。オバンは無言ではあるがその代わり「威嚇音」が鳴り響く。この音でいっきに辺りの空気が凍り付く。「Let it go~そのままにしろ~(戸を開けたままにしろ~)」 」と歌う「アナと雪の女王」さながらである。そして全て(本当に全て)のものが、オバンの手によって、「子供の権利」という名のもとに子供たちの手の届く場所へ戻されるってわけだ。これがどういうことを意味するのか、幼児教育に携わっていない読者の方でもわかるだろう。

幼稚園戦争敗北の行方

一番の問題は、である。一番の問題は、この魔女オバンの「すべてのドアの開放」というとてつもなく素晴らしい思想の導入の仕方が、現時点では誰の目から見ても失敗しているという事なのだ。そして一番の謎は、くろねこが感じるに、オバンはそのことに気がついていないとは思えないってことだ。それなのに現時点「やっていること」を徹底させようというスタンスを頑なに崩さない。 だから、不気味なんだ。

しかし、魔女オバンはただの頑固婆だとも思えない。とにかく今のところはすべてが謎で不気味なわけである。

 魔女オバンとの戦争はものすごい長期戦になりそうだ。そしてこのお話も、いままでのくろねこの仕事人生の中では味わったこともないような、ゾクゾクする面白い奮闘記になりそうだ。

魔女オバンはただいま休暇中で、今頃エアーズロックを拝んで更なる魔力を注入中であるが、この記事が出るころには「私は世界の創造主」の女神笑顔を振りまいて無理難題を四方八方に押しつけいるに決まっている。次回のくろねこ先生幼稚園奮闘記第4話では、そのオバンの休暇中に、ほかのスタッフを巻き込んで仕掛けたくろねこの宣戦布告とその後に巻き起こる奮闘記のお話を描きたいと思う。興味があればぜひまた読んでほしい。

オーストラリア幼稚園先生奮闘記第4話はこちらから

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読者の皆様へおことわり; このお話は、くろねこ先生の実際の職場での体験を一部参考にして作られていますが、お話に登場する人物や施設はすべて架空のものです、あしからず(笑)。

こんなお話もあるよ!

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